家に戻ると、いつも以上に重い空気が漂っていた。
玄関を開けるとすぐに両親の声がリビングの方から聞こえてくる。

「なんで今更そんなこと言うのよ!」
お母さんの声が刺々しく響く。

「っ…俺だって好きでこんなことになったわけじゃない!」
お父さんの怒鳴り声がそれに重なる。

私はため息をつき、靴を脱いでそっとリビングの扉に手をかけた。扉を回す手が一瞬止まりそうになるが、もう一度力をぎゅっと込めて開ける。
家に帰るたびに繰り返されるこの喧嘩。もう、これ以上は見たくなかった。

「ただいま…」
かすれるような声が喉から出た。
けれど、返事はなかった。両親の怒りはまだ消えていない。張り詰めた空気がリビングを包み、私を圧倒した。

お父さんは私を一瞥するがすぐに視線を逸らされる。緊張した空気が、まるで張り詰めた糸のようにリビング全体を包んでいた。

「…どうせ、もうすぐ離婚だ」
お父さんが静かに放ったその言葉が、場の空気をさらに凍らせた。
「離婚って…そんな話、私には何も…!」
私は目を見開き、両親を交互に見つめた。

「ねぇ!おかしいわよね、急に離婚なんて…浮気だわ!!浮気よ…想乃もなんとか言いなさいよ…」
その声についびくっと身体を震わせる。声を荒らげてそう言うお母さんの瞳は虚ろで恐怖さえ感じてしまった。

「そうやって被害者ズラばっかするお前が悪いんだろ…?!急なんかじゃない!前から考えてたことだ」
父の言葉がさらに重くのしかかる。私の頭の中は混乱して整理が追いつかなくなっていた。
両親の喧嘩は日常茶飯事だったけど、離婚なんてことが本当に現実になるなんて考えたこともなかった。

「…それならせめて、想乃はお母さんのところに残るよね?ねぇ…そうよね?!」
お母さんの言葉に私は何も言えず、ただその場に立ち尽くしたまま胸の奥がざわついていた。