「想乃、何ぼーっとしてんの?」

突然、彗の声が耳元で響く。びっくりして顔を上げると彼の瞳が私を見つめていた。

「え、あぁいや…あの二人仲良いなって思って」
私は慌てて視線を彗から外す。
そんな私の言葉に彼も二人の方を見る。

「まぁクラスもずっと同じだしな」
「うん、宙くんってりのんのこと好きなのかな?」

班を決めた時、唯のことは好きなわけじゃないと言っていた。それなら誰だろうと考えた時に彼女しか思い浮かばなかった。
決して根拠なく言ってるわけではない。だって宙くんの仮面にはふんわりと優しい桃色がいつも隅の方で灯っているのだ。
優しい優しい色で、怒りとは違う色。
宙くんの仮面がたまに怒っているのは怖いとも思うけれど常に柔らかい色をもつ彼はきっと優しい人でもあるんだと思う。

「いや、あいつは…」
「あれ?唯どこ行ったんだろう」
辺りを見回すと唯が近くにいないことに気付き、つい彗の言葉と被ってしまう。

「あっ…ごめん。えっとなに?」
彗は少し黙ってから「いや、なんでもない」と返してくる。
「それより、篠原ならさっきルンルンしながらあっち向かってたぞ」
彼の指さした方向を見ると唯は「限定メニュー」の文字がかかれた列にいつのまにか並んでいた。

なんだかさっきの話題をはぐらかされてしまった気がしたが、それよりも彼の口から"ルンルン"という単語がでてくることに思わずにやけそうになる。
当の本人は普通の顔をしていて意識してやっているわけではなさそうだ。彼の周りの人達はこういうギャップに惹かれているのだろうか。

「っ、ふふ…」
「え、なに俺なんかした?」
突然笑い出す私に戸惑う彼の姿が余計おかしく見えてまた笑みがこぼれる。周りの風景やカフェの温かい雰囲気もあってか、気持ちがほぐれていく気がした。
しばらくすると唯が戻ってきて、両手には限定メニューを持ってきていた。
「これ、おいしいよ!」と嬉しそうに話している。

何気ない会話を交えているうちに「そろそろ出る?」という宙くんの声が聞こえてきた。
時計を見てみると思いのほか時間が経っていて驚いてしまう。
「そうだね 」と返して私達はカフェをあとにした。