「皆おはよー!早いね」

ニコニコと笑顔を振りまいて登場した彼女はいつもよりも気合いが入っているのが一目で分かる。
いつも一つ縛りの髪は下ろしていて、緩く巻かれた髪は女の子らしい。いつもの制服よりも短めのスカートはりのんにマッチしているように見えた。

きっと私が履いたら似合わないんだろうなぁ…とぼーっとした頭で考える。今日の私ときたら彼女とは真反対でデニムのズボンにシンプルな白シャツを着てきただけだ。
これだけだと流石に…と思ってなけなしのシアーシャツも羽織ってきたけれど。

「おはよう、りのん」
笑顔を向ける宙くんだがなぜか彼女は少し不服そうな表情をしていた。仮面を見れば不満が浮かんでいる。

「…りのんどうかしたの?」
少し不安になりながら聞くと、私の方を向いて今日初めて彼女と視線が合う。先程はなかった赤色が仮面に徐々に現れ始めた。やっぱりこの前と同じだ…私に対して不満がある。
けれど無視する訳にもいかないのかりのんが口を開いた。

「私…席一人なのやだなぁ。宙の隣がいい」
バスには来た順番で座っている為、今は宙くんと彗、私と唯が隣で四人で横並びになっている。
確かに五人グループは奇数だから一人余ってしまうのだ。
けれどわざわざそれを口にだせる彼女の勇気にもはや尊敬してしまう。

「あ、じゃあ私が…」
「私が変わるよ」
私が席を変わろうかと口に出そうとした瞬間、唯に遮られて驚いてしまう。

「唯なんで…」
小声で伝えると「いつもこういうの想乃じゃん、今回くらいは私に譲ってよね」と返される。
こんな事で唯がわざわざ動かなくたっていいのに…そう思うが彼女の意思は硬そうで曲がりそうにない。

「りのん、それは流石に我儘じゃ…」
「えー!いいじゃん、唯も良いって言ってくれてるし彗くんが想乃の隣行けばいいでしょ?」

そんな彼女の言葉にちらっとまた彗と目が合う。
宙くんの言っていることは正しいけれど、りのんがこの状況でひくとも思えなかった。修学旅行開始早々に揉め事が起きそうでどうしたらいいのか分からなくなってしまう。
そんな時、ずっと黙っていた彗が口を開いた。

「別に何でもいいから、席変えんなら早くしなよ。面倒」
その言葉にさっきまで騒がしかった場がぴしゃりと静かになる。

「…そうだよねー!早くしよ」
その静寂を切り裂いたのはりのんで、彗が席を立つ。宙くんを見ると少し仮面に不満の色が交じっている。この状況ではそうなるのも仕方ないだろう。
唯もこの雰囲気に眉を下げて困っていたけれど「また後でね」とこそっと言ってすぐに後ろの席に腰掛けた。