「お母さん、お父さ…」
下の階に降りるもつい目の前の光景に言葉が詰まる。

ぐちゃぐちゃに床に転がっている服やタオル、机の上にはゴミが散乱している。昨日も喧嘩をしたのだろう。

「………」
まだ誰も起きてきていないらしい。今日はお父さんも仕事が休み、お母さんも疲れて寝ているのだろう。

このままでは何もできないと思い、私は床に散らばったものを片付ける。
「っ、ぃ…痛っ!」
机のものも片付けていると何かの破片があったようで指の先を切ってしまった。少し滲みでる血を見てこれ地味に痛いんだよなぁ…と疲れを吐き出すように息が漏れる。

明日からは、この家に3日間は帰ってこない。そのことを考えると少しほっとして心が落ち着いていく。
りのんと同じ班というのに怖さは感じるものの、唯もいる。きっと大丈夫…そう信じて私はまた片付けに取り掛かった。
だいぶ片付いてきた頃、リビングの方へ足音が近付いてくる音が聞こえてきた。どうやら両親のどちらかが起きてきたようだ。


「ん…?あぁ、想乃か。何してるんだ」
まだ少し眠そうにしているお父さんは、昨日の喧嘩で自分達が散らかしたことを忘れているのだろうか。

「…ううん。何でもないよ、それより私明日から修学旅行だから準備しないといけなくて」
無理に昨日の話を掘り下げるようなことはしない。幸いまだお母さんは起きてきていないし、一対一で話すぶんにはお父さんなら大丈夫だろう。

「修学旅行、そうか。金はどれくらいだ?」
「一応三万円くらいは必要だって…」
私の言葉にお父さんの眉がぴくりと動くのが分かる。

「…分かった。今もってくるからな」
お父さんは基本優しい方…だと思う。私に対して怒鳴ったりする事はあまりなくて。けれど私のことを好きなわけでもないだろう。

言ってしまえば無関心。そんな言葉が合っている気がする。
両親が喧嘩をし始めたのは私が小学一年生にあがり始めた頃からで、最初は私も喧嘩を止めていたのだ。

「っやめてよ…!ゔぅ、おかぁさん…おとぅさ…」
必死に縋り付いて、泣きついていたあの頃。懐かしくも感じる。あの時のお父さんは私のことなんて一度も見ていなかった。
仮面には怒りしか映っていなくて、私の言葉なんて…耳にはいっていなかったから。

「…ぃ、おい!想乃もってきたぞ」
いつもより少し大きな声が聞こえてびくりとする。昔のことを考えてぼーっとするなんて私は何をしているんだろうか。
「あ…うん、ありがとう。お父さん」
先程の光景を忘れるように、私はできるだけ笑みを浮かべて返事をした。
あとは服や小物の準備をするだけだ。早く済ませてしまおう。そんなことを考えて歩きだした時だった。