チャイムがなり放課後にはいると、私達の班をのぞいて周りの生徒達はぞろぞろと帰っていく。

「皆もりのんが入るで大丈夫かな?」
宙くんの言葉に唯は「うん!大丈夫だよ」と返すがまだ心ここに在らずだった私は返事が少し遅れてしまう。

「ぁ…うん大丈夫!入ってくれてありがとうりのん」
出来るかぎり笑顔で、明るく、相手に嫌われないように。怒らせないように。傷付けないように。
もしこの場で無視なんかされてしまったら…そんな事を考えて心臓がきゅっと締め付けられそうになる。

数秒の空白の時間が過ぎ、りのんが口を開いた。
「……うん。こっちこそよろしくね想乃」
その表情はいつも通りの笑顔で一瞬私の考えすぎだったのだと思った。けれどそんな私の考えは崩れ去られた。
だって、仮面は"怒り"や"憎しみ"を表すそんな表情をしていて。どろどろと混ざったそれは一体どんな色か分からなくて。見たくもなかった。

「彗も、いいだろ?」
まだ返事をしていない彗に宙くんが尋ねる。

「あぁ、別に何でも」
「何だよそれ…まぁいいか。とりあえずこれで決まったしよろしくね」

彗の適当な言葉にはは…と苦笑を浮かべながらも宙くんがまとめてくれたおかげで無事班決めが正式に終わる。私からしたら無事と言っていいのか分からないけれど。
りのんに何かした覚えがなかった。
どうすればいいのかとそんな事を考えていると目の前に影が落ちる。
パッと見上げるとそこには彗が立っていた。私が考えていた間に、いつの間にか唯や宙くんは帰る支度をしていて少しだけ遠くにいる。

「なんかあった?」
「へ…なんで、別に何も」
「いや、さっき明らかに様子おかしかったじゃん」

相変わらず表情も変わらない彼の声は、いつもより少しだけ柔らかいように聞こえる。
心配…してくれてるのだろうか。

「ううん、何でもないよ。大丈夫」
話せない。仮面が見えるなんてこと、誰にも。

「彗、部活行くぞ」
「あぁ。今行く」
宙くんの呼ぶ声が聞こえる。なのに彗はなにやらまだこっちを見つめていた。まだ心配してくれてるのかな…そんな思考を巡らせていると彼の表情が徐々に険しくなっていってようやく口を開く。

「"それ"もやめろ」
眉間に皺を思いっきり寄せて、いかにも嫌そうな顔をしながらびしっと私の顔を指さしてくる。
「なっ…はぁ?!何が…って」
私が文句を言う間もなく彗は宙くんの元へと向かっていた。心配してくれてるのかな…なんてさっきまで考えていた自分が馬鹿らしい。"それ"って…何よ。