『どうしてそう思うの?』と聞こうとしたけれど、隼人君はもう授業が始まるからと教えてくれなかった。
 そんなことをされたら、授業どころじゃなくなるじゃないか.....。 私は話の続きが気になってなんだかソワソワしてしまう。そのソワソワした気分はすぐ隼人君に伝わってしまったようで、こっそりメモを渡された。メモには、『後でちゃんと教える』と書かれていた。

「後でちゃんとねえ.......って、あと二時間あるじゃん.......どうやって集中しろっていうの。」

 案の定、授業なんて集中できるわけがなくて、ノート全く取れずに一時間と四十分が経過してしまった。

「最悪じゃん.....」
 
 私の今日の夏期講習はモヤモヤとたたかうだけで終わってしまった。

 ✱✱✱

「んー!!終わったぁ!!てかほとんどノート取れてなかったね、大丈夫?後で貸そうか?」
 
 集中できなかったのは隼人君のせいでしょ、なんて言う勇気は私の中のどこを探してもないから、その代わりにノートのお礼を言う。

「あの.......さ」

「なに?」
 
 私は朝の話の続きが気になって仕方がなかったから、ぎごちなく話題をかえてみる。

「朝の、はなし」
 
 私がそう口にすると隼人君は何かを思い出したような顔をして『そうだね』と言ってこんな話を始めた。

「僕は、咲良ちゃん達とはちがうから」

「うん」
 
 隼人君の言う、違いっていうのは......自分が車椅子に乗っていることだと思う。私は今までそんなことは気にしたこともなかったけれど。

「小さい時は気にならなかったけど......やっぱり歳がでかくなるとやっぱり気になるの、容姿のこととか、今だったら部活で運動部に入れないこととかさその他にもいっぱい、あるんだけどさ。」
 
 私は今まで、笑顔の隼人君しか知らなかった。隼人君の笑顔の裏にはこんな思いが隠れていたんだと、思い知らされる。

「でもずっとずっと、こんなことを考えてるわけじゃないの、最近ね......また気になり始めちゃってさ.....」

「なんで?」

 私はただ、気になって質問しただけだった。

「俺、すきな人できたの.....だからあんまり弱いところ見せられないなってさ。」
 
 一瞬、心がざわついた気がした。まるで心が、『これ以上聞いてはいけない。』と言っているみたいだった。