「え、?
あ〜……ボクは伊集院 昴!
よろしくねぇ」


なぜ知っているか、は聞かないでおく。


私の頭はもうパンパンだから。


これ以上、おかしな事がおこると、
なにか、思い出してしまいそうで、
ぎゅっと、胸を掴まれた感じがこびりついて離れない。


「よろしくお願いします。昴様」


「え〜? 昴キュンって呼びなよ〜」


え〜と、どうしようっ。


「す!ば!る!」


あ、明日花さん!?


「ごめんって〜。機嫌直してよ、明日花ぁ」


「…」


「えと、昴君でいいかな……?」


凍った空気を溶かそうと頑張ってみる。


「ん〜、い〜よ? 百合ちゃんは〜?」


…。


やっぱり、昴くんも、百合のこと、知ってるんだ。


……なんでだろう。


……聞く、のは怖い。


なぜかわからないのに、頭が痛い。


思い出すな。
そう、本能が訴えかけてきているようだ。


「……な…んで……」


「え?」


「どうしたの?」


「ぁ……いや、なんでもないから、気にしないでね」


「……昴様。一度、凪様をお呼びになられては?」


「そうだね〜。兄様〜」


あ、そうやって聞く??

てっきり、電話でもするのかと思った。


「……なんだ」


「兄様!?
きてくれたの!?」


「……要件は」


「えと、愛音ちゃんが体調悪いから、兄様呼べばいいかなあ〜なんて」


え、体調大丈夫だよ……?


「そうか」


「……ぇっ」


顔に、熱が集まって、真っ赤っ赤になる。


だって、だって、また……お姫様抱っこされてるもん……。


「……嫌か?」


「い、いえ」


「そうか」


……でも、これは何よぉ!


だって……だって……まるで見せつけるかのような……。
……っ、な訳ないことはもちろんわかってるけど……! けど……!!


だって……お姉ちゃんに……言わ……、いや、なんでもない……。

……ごめんね、お姉ちゃん。約束守れなかったね、私、あの時。



「……父の所へ行く」


「え?」


私……も? なわけないか。


「愛音も、だ」


……? なぜ……?


「大切な、話がある」


っ……。


酷く悲しいような、決意のこもったような、声。


一体あなたは何を伝えるのでしょう。