「百合、朝ご飯よ。
ボロボロの召使いが作ってくれたわよー」


「……そう」


「で、その召使いはどこかしら?」


っ…。


や、ばい。


百合と喋ってたってわかったら…どうなるんだろう…。


「まさか、百合の所にいるわけ、ないでしょうね?」


「……いや。
さっき、お風呂場の掃除しに行ったわよ」


百合は、あの約束を守ってくれているんだ。


それは、《百合が怒られることはやめて》というもの。


私のせいで、人生を狂わせるのは、もう嫌だ。


だから、百合の家に始めて住ませて頂いた日に、百合には言っておいた。


その日からもう、救けてくれていたから。


自意識過剰って思われるかもしれないけど……これが妥当なんだよ、愛音。


お風呂場……今から急いで行けば、おばさんのルートよりも早く着く。


百合は、天才だなぁ。


そこまできちんと、細かく“計算”しているんだから。


「そうなの。
朝ご飯食べるわよ」


「……はい」


『百合、またね』


口パクで伝えて、部屋から去る。


『がんばれ、ごめんね』


百合の口癖は、『ごめんね』。


私が、この家にきて、少し経ってからずっとこの口癖だよなぁ……。


これで、かれこれ9年目、か。

一緒に暮らし始めて。


とりあえず、お風呂の掃除を始める。


……急がなきゃ、おばさんが見に来る。


それまでに綺麗にしとかなきゃ……。


「……愛音、あんた、これは何?
こんなゴミも取れないのかしら」


ぁ……おばさん、いたんだ。


集中し過ぎたのか、気づかなかった。


そして、さっき掃除を終えたところに、なぜか、
お風呂場にはそぐわない、ガムのゴミが落ちていた。


なんで。


それしか、思い浮かばなかった。