「…………さ、朔くんっ!!」 昇降口前。灰色に広がる淀んだ世界を億劫そうに仰ぐ ───朔くんが、 肩を少し震わせたあと、驚いたように振り返った。 朔くんの瞳が私を捕らえる。 スクバをもつ手に力が入る。 私はすう、と口を開いた。 「朔くん、傘、持ってないの?」 「……うん」 「じっ、じゃあ、よかたら、傘、は、はい、りませぬか……」 ……噛みすぎ。 弱々しく放たれた声は雨音で呆気なくかき消されていく。