職員室を早足で通り過ぎた私の隣に、同じく早足で追いついた男。



「不機嫌そうな顔してるな。
原因は俺か?」

「私が不機嫌な原因が何故自分だと思うんですか? 唐居(とうい)先生」

「噂、聞いただろ?
俺に彼女が居るって噂」

「相手が英語の三菜下(みなか)先生、美術の鵜瀬(うぜ)先生、数学の茅岐(ちき)

「居ないから。
断るためについた嘘だから」



噂によれば、2年A組の手芸部の子から告白されて、フッたらしい。



「機嫌直ったな。
俺の事、大好きだな」

「昔! の話です」



唐居先生は私の父の同僚の息子。

私が小さい頃から家族ぐるみで仲良くて…自然に好きになってしまった私は、中学2年生の時に告白して、フラれた。

その事は誰にも言ってない。言うつもりもない。



「1年半は彼女作らないぞ。
嬉しいだろ?」

「私を嬉しくさせる必要…ないですよね?」

「好きなんだ。
(ひょう)ちゃんの嬉しい顔が」

「その呼び方…誰かに聞かれたらどうす」

「通り過ぎてるよ」

「通り過ぎてる?」



何の事…。



「図書館に行くんじゃないの?」

「…行きます!!!」



分かりすぎてる。私の心全部……。

大好きだ。清新(せいしん)くん。