あぁ、死ぬってこうゆうことなんだ… 
















「千和ちゃん、大丈夫?」

「あ…あのっ、はい…」

病室を出た廊下の少し離れたところにあったベンチに座って、もう上手く立って入られる気さえしなくてだらんと壁に背中を付けて柊真のことを考えていた。


もう柊真はいない。

受け止められない、受け止め方がわからない。



私、どうしたら…



「千和ちゃん、これ…」

柊真のお母さんが1冊のノートを私に見せた。

「…これっ」

「千和ちゃんにもらってほしいの」

このノートは、ずっと柊真が書いてた…

「中身は読んじゃったんだけどね、千和ちゃんのことがいっぱい書いてあったから」

“じゃあオレ、千和の観察するわ!”

そういえば書いてるとこは見てたけど、何を書いてるのかは見たことなかった。

研究対象が私ってなんか恥ずかしくて変なことかいてあったらどうしよって思って見せてもらうこともなかったし。

「千和ちゃん、あの子の夢を叶えてくれてありがとうね」

「え…」

“ちなみにオレの夢は自由研究を完成させること!”

渡されたノートを受け取る。

開くのには少し勇気がいって。

「…ずっとね、普通の学校生活が送りたかったと思うの。入退院ばかり繰り返してから」

柊真のお母さんが涙をにじませる。

「憧れてたんだと思う、…だから毎日こっそり家を抜け出してたのね」

「!?」

え、抜け出してた?って、…え?

それってどうゆうこと?


それってもしかして…


「今から寝るから1時間はお母さん部屋に入って来ないでねなんて嘘、すぐにわかっちゃうに決まってるのに」

毎日あの防波堤で会っていた時間は決まって1時間だった。たまに遅れて来ることもあったけどもう帰らなきゃって聞いたこともあった。

「最初はどこに行ったんだろうって心配したけど、旦那…柊真の父親ね漁港組合で働いてるのね。だからいつも灯台から見てて」

「灯台…?」

「うん、あるでしょ防波堤のところに」

“灯台の上から漁港組合の人が海の観察してるから君がここで飛び込んだらすぐわかっちゃうよ”

あ、あれ…!
あそこにいるのって柊真のお父さんだったんだ!!

だから知ってたんだ、柊真…!

「そこから見える柊真はいつも誰かといて、表情は見えないけど楽しそうだったって…だから止められなかった。きっとベッドの上は息苦しかったと思うから…」

「……。」

そうだったんだ…

あれは柊真にとっての大事な1時間だったんだね。


その1時間を私と…


「辛かったし、きつかったし、悲しいこともいっぱいあったと思うの…」

柊真のお母さんが涙を流しながら震える声で、その言葉は私の中にも残っていた言葉だった。


“つらかったよね、きつかったよね、かなしかったよね”

私を包んでくれた言葉、私を見てくれる気がして嬉しかった。


他に誰も、柊真しかいなかった。

柊真だけが私に言ってくれた。


そっか、あれはずっと柊真が言われてたことだったんだ…!


「たくさん頑張ったと思う」

“千和いっぱいがんばったね”

どうしても浮かんで来るのは笑ってる柊真で、大きな声で私を呼ぶの。

「千和ちゃん、友達になってくれてありがとうね」

友達になろうって約束をした。

友達になるのに約束なんて初めてだった。

それはもしかしたら柊真も約束したかったのかもしれない。

約束しないと始められなかったよね、私たち。

どっちも上手に出来なかったから。

お互いに欲しかったものだったのに。