「柊真…?」

ベッドに眠るように横になった柊真がいる。

いつも柊真の周りを囲んでたモニターも点滴の何もなくて、スッキリした部屋だった。

窓際にかぎ針編みで作った鳩たちが吊るされているだけで。

柊真のお母さんに寄り添って背中をなでてる…たぶん柊真のお父さんかな、みんな泣いてるのに柊真は何も言わない。


どうして…


どうして何も言ってくれないの?




ねぇ、柊真…!




「柊真…っ!」

手に触れた、両手で柊真のずっと点滴で繋がれていた手を。

「柊真っ!私だよ、千和!」

だけど力のない柊真の手は握り返してはくれなくて。

「今日は何するの!?」

お願い何か言って!

千和って呼んで!

「自由研究の続きは!?あ、絵描く!?今度は何描こうっか…っ」


いつもみたいに突拍子もないこと言って笑わせてよ…!


「柊真…っ、目を開けてっ…」

上から覗き込むうように、でもピクリともしない。

「もっと一緒に遊ぼうよ!ねぇ…っ、柊真!!」

どれだけ握る手を強くしても、どれだけ呼んでも、何度呼びかけても返事はなくて、ずっと目を閉じたままの柊真の耳には届いてない。


届いて…


もう届かないの?


もう話せないの?



もう柊真の体温を感じられないの?



次から次へと流れて来る涙が柊真の手に落ちても、何も…

「なんで…っ、約束したじゃん」

苦しい、胸が張り裂けそうだ。

「一緒にあの防波堤で海を見ようって指切りしたじゃんっ!」

はぁはぁ肩を上下に揺らして、息の仕方も忘れてしまいそうになる。

「行こうよ、すぐそこなんだよ…っ!行きたいって言ってたじゃん、ほら早く…っ」

「千和ちゃん…!」

グッと柊真の手を引っ張った時、柊真のお母さんに止められなだめられた。


その瞬間、握っていた柊真の手が離れてぶらんと下に落ちた。



思い知る、柊真がもうここにはいないことを。


柊真にはもう何も届かないことを。



二度と柊真には会えないことを。