「山下さん…っ」

血相を変えた大橋先生が息を切らして走って来た。

はぁはぁと肩で息をして汗だくになりながら、それはすごく嫌な予感がした。

「どう、したんですか…?」

「あのっあのね…っ、落ち着いて聞いてね!」

充血させた瞳が私を震えさせる。

いつも穏やかな大橋先生がそんなに取り乱して私に言いたいことなんて、きっと1つしかないよ。


聞きたくない。


そんなの聞きたくない。






言わないでー…!







駆け出した。

学校を飛び出て全速力で。

大橋先生に呼び止められたけどそんなの構ってられなかった。



すぐにでも会いたかったから、柊真に。





“今朝、青柳くんが亡くなりました”





やだやだやだ…っ!


そんなの信じたくない!


嘘でしょ!?

嘘だよねっ 


そんなわけないよね!?



嫌だよ、死なないでよ…っ




柊真…!




だってまだ私…っ 




溢れて来る涙が風に飛ばされていく。

走っていたから、学校から病院までの道のりを。

決して近くはないけど、走るしかなくて止められなくて会いたくて。



もう一度柊真に、会いたいよ。




会いたい…!




だからお願い…



死なないでよ


生きててよ





柊真…!!!





「柊真…っ」

飛び込むように病室の中に入った。

“千和っ”

いつもの声は聞こえなくて、しーんとしていた。

重くて苦しい、ずしんと乗りかかって来るような空気に息が止まりそうになる。

「千和ちゃん…」

「柊真のっ、お母さ…ん…っ」

はぁはぁ肩を上下にして息を大きく吸って吐いて、でもそんなことどうでもいい。ここまで走って来た疲れなんか気にならない。

「柊真は…っ」

ふるふると横に首を振った。

その瞬間、心臓が張り裂けそうになるくらい体中が熱くなった。

「…っ」

柊真のお母さんが両手で顔を覆いながら泣いている。

声を殺して、体を震わせ、しんとした静かな病室で。