「ちなみにオレの夢は自由研究を完成させること!」

「まだやってたの!?それこそ恥ずかしいから早くやめてよ!」

「え、なんで?何が恥ずかしいの?」

「研究対象が私だからだよ!」

ぷくって頬を膨らませれば、柊真がくすくす笑って。

ぽんって私の頭をなでた。

ほのかな力しかない、触れたか触れてないのかわからない手の感触が全神経を集中させた私の頭の上を駆け巡る。


ドキドキして、目を逸らしたくなる。

きゅってちぢこまって、悟られないように。


胸の音が聞こえないように。

生きてる音を聞かれたくなくて。


ふふって笑った柊真が消えてしまいそうだから。


「私ね、海好きかも!」

何か話したくて海の方を向いた。

「飛び込もうとしてた人がよく言うよ」

「今は違うのっ!」

あの時はちゃんと海を見るなんてこともしてなかったし、波の音さえもイライラしてたし、でも今は…

「あの日、あの場にいてよかったよ」

立ち上がって柵の方へ歩いた。

一呼吸して振り返る。


「柊真と会えたから」


目を合わせる、真っ直ぐ見つめるようにして。


あの日あの場に柊真がいなかったら、今私はここにいないかもしれない。

こうしてもう一度、笑うことなんてなかったよ。



それは全部あの日柊真に会えたから。
 


「ありがとう、柊真」


私と出会ってくれて。


「……オレ嘘付いてたのに?」

困ったように目を伏せた。

「千和からお礼を言われることなんかないよ、むしろ千和のこと騙して嫌な思いさせてたんだから」

「してないよ!嫌な思いなんかしてない!」

柊真の前に立つ。柊真に顔を上げてほしくて。

「言ったでしょ?私はわざとお母さんの気を引きたかっただけなの、だから柊真にそんなこと思ってない」

「……。」

「だって望んだのは私だから」

私の方こそ何も出来なくて。

私が柊真のために出来たことってあったんだろうか。

「ありがとう、千和」

きっともう残された時間は…

「また海見に行きたいよね、ここじゃなくていつもの防波堤で」

柊真が顔を上げる。

だからめいっぱい頷いた。

「うん!行こうよ、行けるよ!だってすぐそこだもん!」

指を差しながら、ここからだと灯台もかすかにしか見えないしもやがかかって見にくい小島は全く見えないけど、この柵の外はすぐそこだから。

「ね、約束しよ!」

小指を立てた右手を出した。

「一緒に海を見に行こう、あの防波堤で!」

新しい約束をしたくて、また柊真と約束がしたかった。

そしたら明日も会える気がしたから。

明日も明後日も、夏休みが明けても柊真に会いたい。

「…うん、しよう約束」

小指を絡ませる、離れたくなくて少しだけ強く絡ませた。


少しでも長く柊真といられたら。






海風が吹く病院の中庭で柊真と最期の約束をした。