「昨日はおばあちゃんとお母さんと3人でご飯食べたの?」

「えっ、何!?食べたけど…」

「何食べたの?」

「…おばあちゃんが作ったトマたま煮」

「何それ!どんな料理!?」

本当に、こんなとこも変わらない。

前もあったよね、こんなこと。 

すぐいっぱい聞いて来るんだ。

「トマトと卵を煮込んだやつだよ、そこそんなに気になる!?」

「だって千和、お母さんとご飯食べるの楽しみにてたから」

「!」

にひっと笑われて恥ずかしくなった。

お母さんの退院が決まった日、ついそんな話を柊真にしちゃった。

楽しみに…
楽しみにしてた、んだけどそんなに顔に出てたのかな?

恥ずかしい、楽しみなんては言ってはないけど顔に出てたってことだよね!?

恥ずかしい…っ 

両手で顔を押さえて赤くなりそうな頬を隠した。

「千和が嬉しそうでよかったよ」

「……。」

恥ずかしい、嬉しいってことも顔に書いてあるのか。

「ねぇ千和」

次は何を言われるんだろうって、さらにぎゅって顔を押さえた。

たまに吹く強い風が助かる、火照った頬を覚まして…

「お母さんのこと許せた?」

「…え?」

急に大人びた口調で、手を頬から離し思わず柊真の方を見た。

だけど柊真は真っ直ぐ海を見ていて、目が合わなかった。

「お母さんのこと、許せた?」

「お母さんのこと…?」

「たくさんあったでしょ、千和いっぱい傷付いて…」

それは考えなかったわけじゃないけど、お母さんのして来たことは今だって私の中にしっかり残ってる。

深い傷として私の中に残ってる。

この先、それはいつ消えるかは正直わからないの。

でもね…


「許したい」


真っ直ぐ海を見る。
キラキラと水面が光って眩しい。

「…たくさんあったよ、いっぱい泣いたし何度もお母さんのこと嫌いになった」

もう戻れないのかなって昔のことばかり思い出してた。

「だから簡単には全部受け入れられないし、これで終わりってわけでもないし、お母さんにだってこれから努力してよねって思ってるけど…」

静かに息を吸う、気持ちを落ち着かせるようにこれは私の決意表明でもあるから。


「私は許したいの」


出来ることならもう一度、あの頃のような日々を。


そのためには私だって変わらなくちゃ。

そんなに上手くいくかはわからないけど、そうしたいんだ。


「そっか、いいと思う千和がそう思うなら」

「…うん」

いつか心の奥から許せるように、お母さんのこと。

そんなふうにまた家族を作っていきたい。

「それが目標っていうか、夢かな…恥ずかしいけどなんか」

「なんで?いい夢じゃん」

にこって笑ってくれるのが嬉しくて、上手く目を見れなかったけどうんって頷いて私も顔を緩ませた。

柊真はいつも優しさをくれるよね。