「千和…」

柊真が重そうに体を起こした。走ってもないのにぜぇぜぇ息を切らしながら。

「柊真っ、寝てなくていいの!?」

「うん…これくらい」

思わず隣に駆け寄った。支えなきゃって思って。

「ここから見える海ってキレイなんだ」

少し上の階にある病室は窓から一面に海が見える。遠くの方には船が浮かんでる。

「特にね、日が暮れる時の海の青と太陽のオレンジが重なる水平線がキレイなんだよ」

まだ日が暮れるには少し早い。

どうして柊真が日が暮れる5秒間って言ったのかな、きっとよっぽどキレイなんだろうなぁその瞬間が。

「ずっとこうしてたいなって思うことがある、このまま時間が止まればいいのにって」

目を伏せて、窓から視線を落とした。

「生きるってすごいことなんだ、明日が来るってすごいことなんだよ。つらいこともかなしいこともしんどいこともたくさんあるけど…生きてればさ、いいこともあると思うんだ」

一度閉じた目をゆっくり開けて、振り返った。

私の方を真っ直ぐ見て。

「だってオレは千和と出会ってから毎日楽しかったから」

“千代、オレは千和と会えてよかった”

柊真のためになるなら私の寿命をあげるって思ってた。


だから私と会えてよかったんだって

私も柊真の力になれるならって

そう思ってたのに…


柊真は私と会えてよかったの?


こんな私でも会えてよかったの?



私も毎日柊真と会えるのが楽しかったよ。 



「千和、約束守れなくてごめん」

“またここに来て!オレに会いたくなったらここで会おう!!”

ふるふると首を左右に振った。涙が出て来るばっかりで声が詰まって、必死に首を振った。

「本当はもっと千和と遊びたかったんだけど…オレ友達千和しかいないし」

大橋先生がずっと学校には来てないって言ってた。そんな柊真が友達と遊べるわけなくて、たぶん取り(つくろ)った嘘だったんだと思う。

きっと体調が悪くて来られなかったー…

「千和」

私の手に優しく触れた。

きゅっと握る、細くて白くて力だって弱くてそんな手だったけど。

「千和は生きて」

優しくて、あったかい。

「生きてよ、千和」

潤んだ瞳が私を見てる。

柔らかくて凛として、そんな瞳がじっと私を見てる。

なのに、私は涙が止まらなくて握られた手を握る返すことも出来なくて。


そんなこと言わないで。

私だけに言うみたいに言わないで。


柊真も生きてよ…っ


「柊真…っ」

「ん?」

「私…また来るからっ!ここに来るから…」

声が震えちゃって上手く声が出せなかった。

聞きづらかったかもしれない、振り絞るようにお腹から声を出したから。 


「約束しよう、…また会おうって!」


また柊真に会いたいから。