「…バレた?」

「え…」

何を言おうか迷っていた私に柊真が先に発した。

いつもは元気で大きな口で喋ってるのに、そんな勢いはなくて。

落ち着いてて静かだった。

病室だって静かだ。

閉まった窓からは風も入って来ないしこんなに海が近いのに波の音も聞こえない。

柊真の体と繋いだベッドの横に置いてあるモニターがただ光るだけで。

「やっと気付いたか」

くすっと笑った。ふっと声を漏らして。

「あんな嘘すぐバレると思ったけどね」

「嘘…?」

“千和とオレの寿命が入れ替わる!”

あれは柊真が作った嘘…

「あんなん嘘だよ、そんなこと出来るわけないじゃん」

天井の方を見ながらくすくすと笑っていた。全然楽しそうには見えなかったけど

「…どうしてあんなこと私に言ったの?」

目を閉じた、一瞬だけ。思い出すみたいに。

「千和がむかついたから」

スッと刺さるような声だった。

グッと私の胸をえぐって。

「海に飛び込もうとか何してんだって思った」

「…っ」

「律儀に靴なんか並べちゃってさ、死にたいとかふざけんなって」

ゾクッと体が震える。

あの日の私が蘇って来るみたいで、柊真の乾いた声が聞き慣れなくて。

「すげぇーむかついた」

胸がきゅっと締め付けられる。

うすら笑ってるようにも見える柊真は天井を見ているようでどこも見ていない。

「だからちょっと…怖がらせてやろうと思ったんだよ」

あの日、柊真が私にくれた言葉は希望だった。

もしかして今を変えられるかもってかすかな可能性に夢を見てた。


だけど、柊真は…


「むかついたよ…!」

声が滲んだ。

「あたりまえに明日が来ると思ってんだ!そう思ってるから飛び込もうとしたんだろ!?」

言葉が出て来ない。

荒げる柊真に何も言えなくて。

「そんなこと簡単にしようとすんなよ…!」

瞳からボロボロ涙が流れて、ぐしゃぐしゃになりながら右手で拭っていた。

左手には点滴の針が刺さっていたから。

白くて細い腕、他にもたくさんの針の跡があった。

今日は長袖じゃないんだ、初めて長袖じゃない柊真を見た。

「むかつくよ…っ、むかつく…」

嗚咽を漏らしながら、訴えるみたいに。

私に必死に伝えるみたいに。

「オレがほしかったものを捨てようとする千和が…っ!」

静かだった病室に泣き叫ぶ声がこだまする。

「じゃあ代わってくれよ!オレは死にたくない!もっと生きたい!明日も明後日も来年もずっと…っ」


いっぱい柊真と話したいことがあった。


たくさん聞いてほしいことがあった。


ずっと会いたいって思ってた、あの防波堤で。



あの時間だけは好きだったの。


ここに来て、唯一よかったって思えた時だったの。



でもずっとずっと柊真のこと傷付けてたんだ。