大橋先生が近くにあった椅子を引いて、よいしょと腰かけた。

「僕の生徒…僕のクラスの子なんだ、2年生になってからまだ1度も学校に来られなくて」

「え…」

まだ1度も?もうすぐ夏休み、2年になって3ヶ月くらい経ってる。

「病気でね、入学したころからあまり学校へ来られなかったんだけど2年生になってからちょっと難しいみたいでね」

まだかわらないから、もしかして違うかもって、何度も何度もループするように考えた。

「よく病院に会いに行ってるんだ、そこでお話して少しでも学校のことを教えたくて。手芸部の話とかもね、お話したり…」

だけど、聞けば聞くほど全てが一致してしまう気がして…

「いつか来られるように」



“君は死にたい、オレは生きたい”

あの声は心からの願いだった。



「青柳っ」

「柊真」

「そう、青柳柊真(あおやぎしゅうま)くん…って山下さん知ってるの?」


名前しか知らない。

顔しか知らない。


でも大橋先生が言ってるのは柊真のことー…


「そっか、お母さんと同じ病院だもんね。見てるよね、名前」

でもどうして柊真が入院してるのかな、だって病気はもう…


あの日、私と交換した寿命は?


それとも交換しただけじゃ病気は治らないってこと?


勝手に病気も交換されるのかと思ってたけど、それが違うってこと…?


「山下さんと青柳くんは友達?」

「え、友達…」

だったっけ?友達になろうって言ってたけど、それは寿命を交換するためで交換し終えたら友達なのかどうか…

ふと思い出した。

“寿命が交換出来るのは日が落ちる瞬間の5秒間、同時に石の上に手を乗せていた2人だけ”

もしかしてちゃんと交換出来てない!?

柊真の説明もすごいふわっとしてたし、方法が間違ってたのかも…!

「大橋先生!」

「ん、なぁに?」

勢い余って話も途中の大橋先生に詰め寄ってしまった。

「あの神社…!あの海沿いのちっちゃい神社のっ、石が2つ置いてある!」

神社の名前わからない!

しかも地理も上手く説明できない!

えっとえっと…、
なんて言ったらいいんだ!?

「海沿いを、病院の反対方向へ行った山の方にある神社で…っ」

「うん、あるねわかるよ」

目を開いて、知りたかったから。

「寿命を交換する方法ってどうやるんですか!?」

この田舎町に昔から伝わる言い伝えなのかなって、神秘的だったしもしかしてそんな力がある町なのかもって。

だから私が知らないだけで、みんな知ってるのかもしれないって…

「そんな方法はないよ」

思ってた。

「ないと、僕は思うよ」

ごくりと息を飲んだ。

一瞬だけ大橋先生の瞳に力が入った気がして。

「うーんっと…、山下さんが何を思ってそんなことを言ったのかわからないけどそれは出来ないんじゃないかなぁ」

大橋先生が立ち上がって窓の外を見た。窓の縁に手を置いて遠くを見つめる。

「誰にもそんなことは出来ないと思うよ。寿命はその人の生まれ持ったものだからね、もし交換なんてことになったらそれは自分のことを否定することになるんじゃないかなって…僕は思う」

優しい顔で微笑んで、諭すように。

「嫌なこともたくさんあると思う。だけど、自分のことだけは否定しないでほしい」

それは私だってわかってるんだけど、私もそう思ってたんだけど…

そんなのありえないって、でも… 



“千和ありがとう!これでこれからも生きられるよ!”


じゃあ私たちは…私の寿命は…