「千和、しっかりしなさいね」

お米を研ぐ手を止めたおばあちゃんが振り返った。
どうしてかおばあちゃんの方が不安そうな顔をしていた。

震える私の肩をなでてくれたおばあちゃんの震えた手が忘れられなくて、ずっとずっと泣いてる私をなだめてくれていた。

きっと隣でおばあちゃんも泣いていたと思う。

「おばあちゃん…」

流し台の方を向いてまた手を動かし始めた。

研ぎ終わったお米の入ったお釜を炊飯器にセットして蓋を閉める。

「じゃあ買い物行って来るから」

「うん」

「夕飯には帰って来なさい」

冷蔵庫の横にかけてあるタオルで手を拭いてエプロンを外す。

「今日の夕飯は肉じゃがだから…若い子が好きな食べ物なんてわからないからそれでいいわね」

テーブルの上に置いてあった巾着袋を手に取って、廊下の方へ歩いて行く。

「一緒に食べましょう、千和」

ピタッと足を止めて顔を上げた。

真っ直ぐ見つめるように私を見て。

「…っ」

初めて言われた。

いつも1人だったから、ご飯なんてまともに口にしてなかった。食欲だってなかったから。

「千和も食べないとだめよ」


初めてちゃんと話した。

初めて私を見てくれた。


私のことを…


目の奥から熱くなって、じわっと瞳が水分を含む。

「じゃあ千和は八重のことよろしくね」

「…っ、うん」

喉が詰まって上手く声が出せなくてコクンと頷いた。


今少しだけ息がしやすくなった。


私も行かなくちゃ、お母さんのところへ。

涙を拭いて、紙袋を持って、前を向いて。