そう思っていたのに、防波堤に柊真はいなかった。

今日は来ないのかな…
最近友達と遊んでるって言って、私のもとへ来てくれるのも減ってたし。

でも…

“明日も来るから!明日もここで会おうよ!”

そう言ってたのに。

「…ただいま」

ずっと防波堤で待っているわけにもいなくて帰って来た。これからお母さんのところへ行かなくちゃいけないし。

「千和」

「おばあちゃん…」

「おばあちゃんこれから買い物に行くからこれ病院に持って行ってちょうだい」

お母さんの替えのパジャマやタオルが詰め込まれた紙袋を渡された。お母さんの入院はもうしばらくかかる、だからこうやって毎日持って行かなきゃならなくて。

「うん、わかった」

ふぅっと息を吐きながら台所の方に向かい、流し台のところで炊飯器のお釜を取り出した。
お米を入れて水道から水を出して研ぎ始める。

…おばあちゃんは行かないんだ。

お母さんのこと心配じゃないのかな。

まだ怒ってるよね、しかもこんなことになってさらに目立つことになってもっと怒ってるかもしれない。

「千和」

「あ、はい!行きます!すぐ持ってっ」

「学校はどうだった?」

お米を研いでるから私に背中を向けたまま、そんなことこっちに来てから1度も聞かれたことがなかったから何を聞かれたのかも一瞬よくわからなかった。

「え、学校…?」

どうだったって、なんだろう。何を答えればいいの…

「無理しないようにっておっしゃってたわ」

え、誰が?先生かなぁ、担任の小泉先生?

「何かあったらすぐ連絡くださいって」

あ、大橋先生…!

“僕に出来ることがあったら何でも言ってね、相談でも何でも聞くから”

「でもずっとここにいるより学校へ行ってた方が千和も気が紛れるでしょ、八重も数日すれば退院出来るんだから」

…そうゆう意味で学校に行くように言ったんだ。私と2人でここにいてもおばあちゃんも嫌なのかなって思ってたけど。

「だけど…千和が学校へ行くのが辛いなら休んでもいいわよ」

「…え?」

「そうやって、先生には言っておいたから」

先生には言っておいたって…

え、それって…


田舎町だからみんな知ってるんだって思ってた、お母さんのこと。

だから大橋先生も知ってるんだって。


おばあちゃんが学校に連絡してたの?