「あ、そういえば!」

しんみりした空気の中話題を変えるため顔を上げた。

「大橋先生!」

この話はまだしてなかった、言いたいって思ってたのに。

「大橋先生でしょ、柊真が言ってた背の高い手芸が趣味の先生って!」

ピンッと人差し指を立てて、ねっと首を傾げる。

絶対そうだよね!すごいわかりやすかったもん!

「そう、わかった?大橋先生!」

「思ってたより背高くてびっくりした」

「ね~!自販機よりでかいんだって」

「自販機より!?」

え、そんな人いるんだ自販機よりって…
自販機ってあの自販機だよね、すぐそこにもある。

「でもいい先生だよな、森って感じで」

「森?」

「森の中にいるの安らぐって言うじゃん、そんな感じ!」

「あー、森…」

例えは難しかったけど言いたいことはわからなくもないかも。
森には癒し効果があるし、大橋先生も背が高くて木みたいだしまろやかな話し方は確かに安らぐ…

「あれ?柊真って大橋先生と話したことあるの?」

「え?」

「だって手芸部の顧問って言ってたから部活の大会とかもなさそうだし、学校違ったらどこで会うのかなって思って」

あんまり他校の先生と接点ってなさそうに思えたから。

「あぁ、…友達が西中だからよく話しててそれで」

「そっか、よく遊ぶ友達?」

「うん、そう!その友達!」

ふーん…、柊真の友達も西中生なんだ。どんな子なんだろ、その子。

「あ、オレそろそろ帰るわ」

「え、早くない?いつもまだ…」

「ごめん、今日は用事があるから」

「そっか…」

いつもならまだだらだらと喋ってるけど、柊真は私の観察だって言ってるけど、用事があるならそっか…うん。

「あ、待って!ねぇ連絡先交換しない?」

「連絡先?」

引き出しにしまっていたスマホを今日は持って来た。外に持ち出すのは久しぶりだ、携帯なのにね。

「交換しといた方が便利じゃない?ほら、いつでも連絡出来るしっ」

「ごめん、オレ持ってないんだ」

「え…そうなんだ」

「うん、ごめんね」

「ううん、持ってないなら仕方ないよね」

中学生だもん持ってなくても普通か、しかもここはのどかな港町…田舎町だし。

「明日も来るから!明日もここで会おうよ!」

「うん、わかったじゃあまた明日ね!」

別にいらないし、こうして約束すればいいから。

そうだね、なくてもね。