「……。」

ふぅーふぅーっと息を整えて、最後に深呼吸をしてから玄関のドアを開けた。

一気に走って来ちゃったから汗がタラタラと流れて来て下を向いた瞬間ポタッとドアにかけた手に落ちた。

つかっれた…

ちょっと必死になり過ぎちゃったかも…


それくらい焦燥感に駆られてたから。


「…ただいま」

聞こえるか聞こえないかぐらいの声で、帰って来たアピールはしたいけど主張し過ぎるのもあんまり…

おばあちゃんの靴がないってことは出掛けてるっぽい。

お母さんは…2階?
そぉーっと廊下を通ってそろそろと階段を上がる、お母さんの部屋のドアに頬をくっ付けて耳を澄ます…

何となく物音は聞こえる、かな。

じゃあお母さんは…

「……。」

スッとドアから離れた。

…なんだ、やっぱりね。

忙しくも何ともないよね。

もしかしたらって、あのまま保健室で待ってたらって考えたけど待ってなくてよかった。

そのままぺたんっと床におしりをつけた。ドアにもたれかかって、少し上を見て。


いつから変わっちゃったんだろう。

昔はこんなんじゃなかったのに。


どうして今はこんなに息苦しいの…?


あ、やばいまたお腹痛くなって来たかも。

リュックを背負ったままだったから枕みたいになっちゃって、そのまま体を預けて目を閉じた。




あぁ、このまま消えてしまえたらー…





「千和っ」

ハッとして目を開けた。

私寝てた!?

つい眠くなっちゃって、今の声は…

「お母さん…!」

ドアの前でもたれかかってたと思ったら廊下にごろんと寝転がっていた。え、いつの間に。

「お母さっ」

「何やってるのそんなとこで、邪魔だから」

「…ごめんなさい」

すぐに立ち上がったけど、お母さんはただ私の隣を通り過ぎるだけだった。

「……。」

「千和、あんた体調悪いんだって」

背中越しに聞こえた声に振り返る。

香田先生が電話してくれたんだ、そうだよねお母さんもわかって…!

「うん、ちょっとお腹っ」

「お母さん外に出たくないの」

振り返ったのは私だけだった。

「どうせ大したことないんでしょ、それぐらいで保健室なんて図々しいから」

お母さんは私を見てくれない。もうずっとちゃんと見てくれたことなんかない。

「迷惑かけないで」

迷惑かけてるのはどっちなの?

お母さんでしょ。

お母さんのせいでここにいるのに。

「…ごめんなさい」

どうして私は2回も謝っちゃうのかな。