「あ、そうなんだよね。191センチあるんだよ」

2メートルはないけど十分大きい、天井に頭が付くんじゃないかって思うくらい。

「だからよく怖がられちゃうんだ」

…確かにこれだけ大きいと威圧感とかあるかもしれない、でも大橋先生からはそんなの全然感じない。話し方も声もまろやかでふわっとしてるからかな。

むしろ優しそうな雰囲気しかないけど…

「山下さんは部活やってる?」

「あ…やってないです」

みんなの輪に入っていくのが怖くてやらなかった。

もう誰かと話すのは怖くて。

「じゃあ手芸は好き?」

「え?」

手芸?あ、それも確か柊真が言ってた…

「僕手芸部の顧問やってるんだ、よかったら今度見学に来てよ」

やっぱり柊真の言ってた先生だーーー!

だからだ、これだけ背が高くても威圧感ないのは。だって胸元のポケットに手作りの花のブローチ着けてるんだもん、きっとこれは作ったやつなんだ。

「瞳数は少ないんだけど雰囲気はいいし、毎日みんなでコツコツ楽しいよ。山下さんも興味があったら覗きに来てよ」

にこって微笑んだ表情もまろやかで、だいたい人と人の間には壁ってやつを感じると思うんだけどそんなちっともなくてつるんてしてた。

だから…

「あ、山下さんも起きて大丈夫なの?」

女の人が保健室に入って来た。
えっとたぶんこれは保健の…、黒縁の眼鏡に白衣を着た香田先生が職員室から戻って来た。

「親御さん、連絡取れましたか?」

「うん、さっきようやくね」

お母さんと…連絡取れたんだ。絶対取れないと思ってた。

「だけどね、今忙しいみたいですぐには迎えに来れないみたいなの。だからもう少し待っててくれるかな」

…たぶんこれは来ない。忙しいなんてことあるわけないんだから、お母さんはずっと家にいるんだもん。

「あの…私もう平気です」

ベッドの上に置いてあったリュックを手に取った。

「山下さんお母さんもう少ししたらっ」

「いえ、1人で帰れますから大丈夫です!」

保健室から飛び出して走って下駄箱まで向かった。

香田先生も大橋先生も何度も呼びかけてくれたし、追いかけても来てくれたけどそれを振り切って走って帰った。


ずっと頭の中は駆け巡っていたから。


どうしよう、どうしよう…

怒られる…!


お母さんに怒れる…っ!!!