「どうやって来てるの?」

「………え?」

「山下さんは歩いて来てる?それとも自転車?ちなみに僕は歩きなんだけどね」

何…その問いかけ、思ってたのと全然違ったんだけど。てゆーかそれ聞いてどうすんの…

「…歩きです」

でも聞かれたから一応答えてみた。だってそんな前のめりで聞くようなことじゃないから。

「そっか!歩きか!」

それでなんでそんな嬉しそうに目を大きくしたのかわからない。

「ここは自然が多くてゆったりしてるでしょ、海も近いし歩いて来るといつもよりゆっくり時間が流れてるように思えて気分がほぐれて…」

私の顔を見た、目を合わせるようにして。

「でもその分、考える時間も増えてしまうよね」

「……。」

声が出て来なかった。

目が離せなかった。

まろやかな声に包まれたみたいで。

「大橋せんせーさようなら~!」

窓の外からぶんぶんと保健室に向かって手を振っている。わざわざここにいる大橋先生に手を振るなんて、それはきっと大橋先生がみんなに好かれてるから。

「あ、待って大橋先生といるの…お母さんがっ」

そう言いかけたとこで大橋先生が手を振って窓を閉めた。

その続きはきっと思ってるやつだと思う。

“不倫して旦那に捨てられた親子…!”

これが田舎町かって思っちゃった。

誰に話したわけでもないのに気付いたらみんな知ってて、何もしてないのに距離を置かれるようになってた。

“大橋せんせーさようなら~!”

私は一度も言われたことがないそんな言葉、ここへ来てから。

はぁ…
って勝手にタメ息が出るのやめてほしいな。

てゆーかお母さんに電話どうなったのかな?たぶん繋がらないよね?

もう平気だし、1人で帰ろうかな。

布団の中でよれてしまった制服を直しながらベッドから出ようと足を出した。

椅子に座ってたから気付かなかった、前に立って初めて見上げたから。

「大橋先生、背高いですねっ!?」

“ねぇねぇねぇ西中ってさめっちゃくちゃ背の高い先生いない!?”

柊真の言ってた先生って大橋先生…!?