柊真が先に帰った後、なかなか帰る気になれなくて1人でぼぉーっと海を見てたら遅くなってしまった。

そろそろ帰らないと、でも全然帰る気になれない。


笑って話してたけど、あれは本当だ。


たまにさみしそうな顔をして海を見つめていたから。



あんな顔、これから死ぬ人にしか出来ない顔だ。


私にはわかるから。




「…帰るか」

重い腰を上げて立ち上がる。トボトボと重い足を動かして、いつもよりゆっくり歩いたからさらに家に着くのは遅くなってしまった。

「…ただいま」

声も重くてしょうがない。

「……。」

まぁ誰の声も返って来ないからいいけど。

このまま2階行っちゃお。古びた木造の家は廊下を歩くときしむ、どんだけ気を付けてもみしっと音がする。

「千和、あんたこんな時間まで何してたんだ」

ほら、気付かれた。紙で出来た障子だもん仕方ないけど。

「おばあちゃん…」

少しだけ開いた障子戸からおばあちゃんが睨むように顔を出した。

「こんなに遅くまで…」

「……。」

ハァっと大袈裟にタメ息を吐かれた。

次言われることはなんとなくわかってる。

「母親に似てだらしのない子ね」

もう何度も聞いてるから、ここに来てから。

「外は真っ暗なのにフラフラ出歩いて、恥ずかしいったらないわ」

これはいつものこと、私の顔を見たら息をするみたいに口を動かすの。

「私だってねぇ、仕方なく置いてやってるの。家に置いておくのも恥ずかしいのに、もう少し自分の立場ってものがわからないのかしらね」

「…すみません」

「あんたもそればっかりね、八重(やえ)と一緒。こっちに来てからずっと引きこもってる八重もあんたも変わらないわ」

「…。」

ぴしゃっと戸が閉まった。

ぎゅっと手をグーにして力を入れて呼吸をする。

ゆっくり何度も何度も、前が向けるまで。

また廊下をゆっくり歩いた。

奥の階段を上がって、すぐそこは…


お母さんの部屋。


今日もずっとここにいたのかな、おばあちゃんがそう言ってたし今日も…

「……。」

ドアノブに手を掛けようかと思った。

だけど出来なくてそのまま隣の自分の部屋に入った。