だから今日もここへ来て、海を眺めてしまった。絵を描くために。

「ねぇ青色って何種類あると思う?」

「種類?えー…水色も青だしコバルトブルーとかターコイズブルーもあるし10種類ぐらい?」

今日は色塗り、パレットに絵の具を出して水をつけた筆で使いたい色になるように配合していく。
海を塗るのにたくさん青色の絵の具を出した。

「青色は200種類以上あるんだよ」

「そんなにあるの!?」

「ねー、色って無限大だよね~」

青色に白色を混ぜる。そしたら色が変わって、さらに白を多くしたらまた色が変わる…それでも200種類ってそんなにあるんだ。

「千和はホリゾンブルーって感じだね!」

「ホリゾンブルー?」

「空はスカイブルーって言うでしょ?スカイブルーよりもう少し薄いやわらかい青って感じの色」

やわらかい、なんて言われたことないし思ったこともないけど。

柊真にはそんなふうに見えてるの?

「小学校5年生の時ね、学校で海の絵を描く授業があったんだ」

柊真が筆を置いて指を差した。

「見て見て向こうの方!向こうの奥にちっちゃ小島があるでしょ!」

「あ、うん…あのモヤッててよく見えないけどこんもりしてるとこ?」

「そうそれ!」

なぜか声を大きくして、私がそう言ったことに嬉しそうだった。

「ここから見るとさ、霧がかかっててモヤモヤしてよく見えなんだよ。だからオレはそのまま描いたの、いろんな青を使ってそこに小島があるのを伝えたくて影を描いたんだ。でも先生に島が青なわけない、めんどくさくなってテキトーに塗ったんでしょって怒られて…」

手前の島は緑の木が見えている、でもそこから急激にモヤがかかって柊真が言った小島はほとんど見えなくて。

「みんなはちゃんと緑とか茶色使って島描いてたんだよね」

遠くを見つめていた。

今日もモヤモヤしてる小島の方を、(うれ)いだ瞳で見ながら。

「オレにはそう見えたのに、見えてるものがすべてじゃないのかな」

はかなげな横顔をしていた。

横から見ると、まつ毛が長いんだなって思ったりして。