季節はずれの桜の下で


 朝、ハルちゃんといっしょに登校したあと、ふたりで教室に向かって歩く。

「心桜、また帰りにね」

 ハルちゃんの教室の前で手を振って別れると、わたしは自分のクラスに行くフリをして、ハルちゃんと上がってきたのとは別の階段を使って一階に降りた。

 授業には出ずに、桜の木の下に行くつもりだった。

 もちろん、このことはハルちゃんにはナイショだ。

 これまで、わたしはハルちゃんに隠し事をしたことがない。だけど、桜介くんのことは、まだハルちゃんに話せていなかった。

 もしかしたら、このままずっとナイショのままにしておくかもしれない。

 靴箱で靴に履き替えて外に出ると、冷たい風がびゅうっと吹いてきた。

 今日は空気が冷たく、風が強い。何日か前までの春のようなあたたかさがウソみたいだ。

 ブレザーの下に着たセーターの袖を引っ張ると、桜の木へと急ぐ。

 歩いている途中、遠くで桜の花が吹雪のように散っていくのが見えた。花びらが風に舞って飛んでいくたび、胸騒ぎがする。

 花が散る度に不安な気持ちになるのは、桜介くんがおかしなことを言っていたせいかもしれない。

 わたしと桜介くんが会えるのは「桜の花が散るまで」だ、って。

 だから、桜の木の下に桜介くんの姿を見つけた瞬間、ものすごくほっとした。

 よかった。ちゃんと会えた。