「あ、はい。あなたのお陰で、私は大丈夫です」

「そっか。キミが無事で良かった」


あっ、またあの優しい笑顔。


何だろう。彼とは、今日初めて会ったはずなのに……。彼の陽だまりみたいな笑顔が、なぜかとても懐かしく感じてしまう。


「おーい。千葉(ちば)! お前そこで何やってんだ。早く戻って来い」

「あっ、やっべ。はーい! 今行きまーす」


グラウンドのほうから声をかけてきた先輩と思われるユニフォーム姿の男の人に、彼は焦った様子で大声を出す。


よく通る声だなあ。


「あっ、あの……」

「ごめん! 俺、部活に戻らなくちゃいけないから。またね」

「あっ」


『千葉』と呼ばれた彼は、サッカーボールを蹴りながらグラウンドへと走って行ってしまった。


さっき助けてくれたお礼、言えなかったな。


私は、走っていく彼の後ろ姿をしばらく見つめる。


サッカー部の練習着ではなく、高校の体操服を着てサッカーをやってるってことは、まだ入部して間もない1年生なのかな?


「千葉くん……か」


また、会えるといいな。


というよりも、会いたい。


私は、先ほどからドキドキと高鳴る胸を手でおさえる。


もう一度会って、千葉くんに今日のお礼を直接言いたいです──。