それから私は、何を作ろうかと悩みに悩んだ。
そして最終的に、ホットケーキミックスで簡単にできるというチョコレートブラウニーを作ることに決めた。
バレンタインに向けて、レシピ本を見ながら何度か自宅でチョコレートブラウニーを作る練習をして。
完成したものを、学校で香菜にも試食してもらった。
「うん。美桜、これ濃厚ですごく美味しい。これなら、千葉くんもきっと喜んでくれるよ」
香菜が親指を立てて、グーサインをしてくれる。
「良かったあ」
親友にも美味しいと言ってもらえて、チョコレートブラウニー作りに自信がついた頃。
ついに2月14日、バレンタインデーを迎えた。
「ねっ、ねえ香菜。私、今日チョコ渡さないとダメかな?」
「そんなのダメに決まってるじゃん。今日のために沢山練習して、頑張って作ったんでしょう? 千葉くんに今日渡さないと意味ないよ」
そう、だけど……。
「あっ! ねぇ美桜、千葉くんがきたよ」
朝。私と香菜は学校の昇降口のところで、部活の朝練を終えた千葉くんが歩いて来るのを待っていた。
香菜に言われて私がそちらに目をやると、千葉くんは首に巻かれた黒のマフラーに顔を埋めている。
ふわあっと眠そうにあくびする姿が、小さな子どもみたいで可愛らしい。