去年までの私なら、こんなふうに朝から千葉くんを見かけていたら、きっと大喜びしていたんだろうけど。


今はもう、彼に振られてしまったあとだから。


前みたいに、心の底から喜べない。


それどころか、千葉くんの姿を見ただけで彼に振られたときのことが頭の中を過ぎってしまって。


胸のあたりが、ズキズキと痛くなってきちゃった。


「……っ」


私は走っていた足を止め、その場にうずくまってしまう。


失恋したあの日は、たくさん泣いて。


香菜にもたくさん、慰めてもらったはずなのに。


私……失恋から2週間が経っても、まだ全然吹っ切れていないんだ。


「……っう」


こんなふうに胸が苦しくなるくらいなら、千葉くんに告白なんてしなきゃ良かったかな。


今になって後悔の波が押し寄せてきて、私は手のひらをギュッと握りしめる。


「……橘さん!」


すると誰かに突然名前を呼ばれて、私がうつむいていた顔を上げると。


千葉くんが自転車を手で押しながら、こちらへと向かって歩いてきているのが見えた。