ハッとして顔を上げると。
「香菜……」
なんと、香菜が私に傘を差しかけてくれていた。
香菜のきれいな茶髪が、次第に雨で濡れていく。
「どう、して? 香菜、先に帰ったんじゃ?」
「告白の結果次第では、泣いてるかもしれない親友を……1人で置いて帰れるわけがないでしょう?」
「っう……香菜〜っ」
香菜の優しさに、一度止まったはずの涙がまた溢れ出す。
「私、さっき千葉くんに好きって言ったけど……ダメだった」
「そっか。それは残念だけど……よく頑張ったね、美桜」
差していた傘を放り投げて、香菜が私をギュッと抱きしめてくれる。
「千葉くん、私のことよく知らないからごめんって」
「うん」
「だけど、そんな一言で、簡単に終わりになんてできないよ……っ」
半年以上もずっと想い続けてきたのに。恋の終わりは、あまりにも呆気なくて。
「見てるだけじゃなく、何かもっとできることがあったんじゃないかって、思ってしまうの」
「うん、うん」
香菜は相槌を打ちながら、まるで小さな子どもをあやすように、私の背中をぽんぽんと優しく撫でてくれる。
「結果はどうであれ、千葉くんに伝えられただけで美桜はもう十分すごいよ」
香菜の声が、今日はいつも以上に優しくて。
私を抱きしめてくれる体温が、温かくて。
香菜がそばにいてくれるだけで、すごく安心できた。