千葉くんの怪我の手当をしたあの春の日から、季節がいくつか進んだ。


ついこの間まで青々としていた葉桜は、赤や黄色に色づき始めていた。


「千葉くん、やばい。今日もかっこいい」


私は、冷えたスポーツドリンクのペットボトルを、両手でぎゅっと握りしめる。


「美桜ったら、相変わらずね。毎日毎日千葉くんのことばかり見てて、飽きないの?」


放課後。グラウンドのそばに立つ私の隣で少し呆れたように言うのは、クラスメイトで友達の篠崎(しのざき) 香菜(かな)


香菜は、高校生には見えないほど大人っぽくてしっかりしている。

目鼻立ちの整った美人で、腰まで伸びたきれいな長い茶髪が印象的だ。


「だって、好きなんだもん。見続けてて、飽きるだなんてありえないよ」

「ふーん。本当に大好きなのね」


たまにため息をつきながらも、何だかんだと放課後はいつも私に付き合って一緒にグラウンドまで来てくれる香菜。根は優しいんだよね。


──私は、毎日千葉くんのことを見ているうちに千葉くんへの気持ちを自覚した。


千葉くんに会えると嬉しくて。千葉くんを見ているだけで、いつも胸がドキドキして。


千葉くんは今何してるかな? って。


学校でも家でも、毎日バカみたいに千葉くんのことを考えて。


頭の中が、日に日に千葉くんでいっぱいになっていく。


ああ、きっとこれが恋なのかなって。


私は今、千葉くんに初めての恋をしているんだなって。


「ねぇ、美桜」