春くんが引っ越す前日。

家の近所の公園で春くんと遊んでいた私は、別れが辛くて思わず泣きじゃくってしまった。


『美桜……これをあげるから、泣かないで』


春くんが私に渡してくれたのは、茶色いクマのぬいぐるみキーホルダー。


『離れている間、俺の代わりにコイツが美桜の友達としてそばにいるから。大丈夫だ』


ニコッと微笑み、私の頭を撫でてくれる春くん。


『俺、美桜が好きだ。だから、いつか俺がこっちに戻ってきたら……そのときは、ずっと一緒にいような』

『うん。私も、春くんのことが好きだから……約束ね』


私と春くんは、ピンクに色づきはじめた公園の桜の木の下で指きりをした。


そして、翌日。春くんが引っ越す日。


会うと別れがもっと辛くなるからと、春くんに空港まで見送りには来ないで欲しいと言われた私は、自分の家にいたのだけど……。


【やっぱり、最後にもう一度美桜に会いたい】


正午過ぎ、春くんから私のスマホにメッセージが届いた。


それを見た私は、居てもたってもいられず。


春くんに会いたい一心で私は自転車に乗り、急いで近くの空港へと向かった。


『はぁっ、はぁ……』


急がなきゃ。でないと、あの子に会えなくなっちゃう。


最後に一目、春くんに会いたくて。懸命に自転車を漕いでいた私だけど。


キキーッ! ドンッ!!


運悪く私は、あと少しで空港に着くというところで、交通事故に遭ったのだった──。