香菜からバトンを受け取って程なくして、私は後ろから追い上げてきた走者に抜かれてしまった。
順位は3位に落ちてしまったけれど、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
『橘が渡してくれるバトンを、俺が何が何でも一番にゴールまで運ぶから』
『橘は何も気にせず、ただ走れば良い』
千葉くんが私に、そう言ってくれたから。
私は今、千葉くんにこのバトンを渡すことだけを考えて走るんだ。
昨日まで毎日放課後は香菜たちと4人で残って、今日のために練習してきたんだもん。
みんなの努力が、無駄にならないように。
永倉くんから香菜、私へと、みんなが一生懸命繋いできたこのバトンを、絶対に千葉くんへと渡すの……!
「はぁ、はぁっ」
息を切らしながら、私はひたすら千葉くんを目指して走り続ける。
「橘ーーっ!!」
私のバトンを待ってくれている、千葉くんの姿が見えてきた。
「橘、あと少しだ。頑張れー!!」
大好きな千葉くんの笑顔が、声援が、何よりも力になって。私の足は、自然と加速する。
「千葉くん、お願い!」
「おう。任せとけ」
私からバトンを受け取ると、千葉くんは勢いよく走り出す。