「はぁっ、はぁ……」


急がなきゃ。でないと、あの子に会えなくなっちゃう。


陽射しが強くなってきた、春のある日。


真っ青な空の下。小学生の私は息を切らしながら、大好きなあの子に会いに行くために自転車のペダルを懸命に漕いでいた。


だけど、目的地まであと少しの交差点のところで、猛スピードで走ってきたトラックとぶつかりそうになって……。


キキーー!!


大きなブレーキ音を耳にした直後、私の視界は真っ白になり、そこで意識は途絶えた。


* * *


次に目を開けると、見慣れない真っ白な天井が視界に入ってきた。それに、薬品の匂いもする。


あれ、ここは……?


美桜(みお)っ! あなた、気がついたのね!?」


声がしたのでそちらに目をやると、部屋の扉の前で、目を赤く腫らした40代くらいのショートヘアの女性が立っていた。


「良かった! 本当に良かったわ!」


そして駆け寄ってくるなり、彼女は私の体を強く抱きしめる。


……えっと。この人は、私が目覚めたことをすごく喜んでくれている。


それは、分かるんだけど……。


「あの、すいません。誰ですか?」


……私、この人のこと知らない。


すると、女性はハッとした顔で私を見つめた。


「美桜、もしかして……覚えていないの?」

「えっ。覚えてないって?」

「あなた、事故に遭ったのよ」