side那由多





 父は美食家で有名だ。

 子供の舌も肥えさせたいという教育方針により、俺も父と同じものを食べて過ごしてきた。


 食事は身体の資本であり、美味しいと感じるものを増やすことは最大の幸福である。

 そう教わって育ってきた。



 俺の幸福が崩れたのは突然だった。



 いつもの通り食事を取ると、風味も味も何も感じなかった。思わず吐き出しそうになって、すぐに思い止まる。

 御鏡家として、これからも会食等他人と食事を行う機会は無限にやってくるだろう。

 ここで俺が味覚をなくすような人間だと周囲に知れ渡ってしまったなら──。


 下手をすれば父から失望され、御鏡家の品質を落とすことにもなりかねない。


 だから俺はぐっと堪え、これまでと同じ食事を取り続けている。