彼のシャツをシワができるくらい握りしめる。

 玉露くんだ……、玉露くんだ。


 震える体を優しく抱き寄せてくれた玉露くんに、引っ込んだと思った涙が再び溢れ出す。

 日常に戻れたって気がした。



「中、入る?」



 一度だけ頷く。

 涙はどうせ気付かれてるだろう。でもあんまり見せたくなくてうつむいたまま。



「うん。ゆっくりでいいからね」



 玉露くんの穏やかな声はすっと耳に溶け込んでくる。

 あぁもう……結局また迷惑かけちゃってるな。



「……わたし、」

「うん」

「わたしって、さ……」

「うん」



 玄関の段差を上る。

 丁寧に一言ずつ相槌をくれる玉露くんには悪いけど、文章が全然まとまってない。


 ──わたしって、ケーキなんだって。


 伝えるべきことはわかってるのに、気のせいだという可能性に賭けたくなってるんだ。