「そうか。なら、俺のものになりたくなったら苹果から言ってくれ」

「っ! ……はい、そうします」



 こんなにわたしの気持ちを汲み取ってくれる人はそうそういないだろう。

 ……。一瞬浮かんだ顔を、今だけなかったことにする。


 今は、忘れる。

 那由多先輩と二人きりのときくらい、先輩だけに向き合おう。



「お昼、食べましょう」

「ああ」



 自分で作ったお弁当の蓋を開ける。

 最近練習している玉子焼き。


 ……が、右半分にぎっしり詰まっている。

 左半分は白ご飯だ。



「これは……苹果が作ったのか」

「……はい」



 何を考えてるのかわかりますよ。変って言いたいんですよね。

 玉子焼きの形状をしてないと。



「……よく頑張ってるんだな」



 かなり言葉を選んでくれた。

 味は、なんだかため息が出そうな味だった。