彼女は「今度は好きな人と一緒に買い物に来られるように頑張りますね」と言って笑顔で帰っていった。

「なかなかいい接客だったじゃないか」

 突然兄に声をかけられ、肩が跳ねた。

「びっくりした。あれ? 宮本様は?」

 さっきまで奥で接客中だったはず。

「もうとっくにお帰りになられたよ。きっかけはどうであれ、今後、あのお客様が着物を好きになってくれるといいな」

「……うん」

 好きな人が興味を持っていることを共有したい、か。

彼女が頬を赤めて言っていた言葉が頭をよぎる。

 私がさっき、空港に行ってみようと思えたのも、大翔がパイロットという仕事に誇りを持って働いているからかな? だから克服しようと前向きな気持ちになれたのだろうか。

「難しい顔をしてどうしたんだ? 桜花」

「え? 私?」

 自分自身を指差すと、兄は眉根を寄せた。

「他に誰がいるんだ。もしかしてさっきの接客中になにかトラブルでもあったのか?」

「ううん、違うよ大丈夫、なんでもないから」

「それならいいが……」

 とは言いつつ、兄はいまだに心配そうに私を見る。