「この着物を着て行ったら、好きな人も振り向いてくれそう」

 そう言うと彼女は好きな人の話を続けた。

「彼はとにかく素敵な人なんです。真面目で責任感が強くて、ひと目見たら誰もが彼に見惚れるくらいカッコよくて。私なんて見向きもされないんですけどね。でも着物を着た私を見たら少しは興味を持ってくれる気がして」

 こんなに綺麗で愛らしい女性に見向きもしない男性なんて、いったいどんな人なんだろう。同性ながら彼女の仕草や笑顔が可愛くて、話していてとても素敵な女性だと思うのに。

「あなたのおかげで自信がつきました。こちらの一式、いただきます」

「そう言っていただけて光栄です。ありがとうございます」

 正直、購入に至らなくても着物を好きになってもらえたらいいと思っていた。

「着物に関しても詳しく説明いただけたので、今度彼に話しかけるきっかけができました。本当にありがとうございます」

「いいえ、そんな……」

 きっかけがどうであれ、好きな人とともに彼女も着物のことをもっと好きになってくれたらいいな。