両親のことを思い出すと悲しい気持ちになるが、大人になって少しずつ傷は癒されていき、今は両親の死を受け入れることができている。

 きっとふたりも残された私と兄が幸せに暮らしていることを望んでいると思うから。

「ただ、その……なんか、記憶違いがある気がして」

「記憶違い?」

「うん。黒蜜を零したのはお兄ちゃんだったはずなのに、違うような気がしてきちゃったの」

「そう、なのか」

 少し考え込んだ後、大翔は私の様子を窺う。

「今、頭痛がしたり気分が悪かったりしないか?」

「うん、しないけど?」

 どうしてそんなことを聞くのかわからず小首を傾げる。

「じゃあ他になにか気になることは?」

 切迫した様子で聞いてくる大翔に戸惑いながらも、とくに気になることはなくて首を横に振った。

「ううん、とくには」

「……そっか」

 落胆した表情を見せる彼に、私はますます戸惑う。

「大翔こそどうしたの?」

 なにがそんなに気になっているの?

「いや、なんでもない。気にしないでくれ」

 すると彼は通常運転に戻り、残ったわらび餅を食べ進める。

 あまり深く考えなくてもいいのかな? ただ単に黒蜜を零したのが兄じゃなかったら、からかう理由なくなっちゃうからとか?