それにずっと一途に桜花を想い続けてきた俺になら、大事な孫娘を任せられると言っていたと聞いた時は、身が引き締まる思いだった。

「久しぶりに会った桜花は、昔と変わらず可愛かったな」

 見合いを終え、就職を機に家を出てひとりで暮らし始めた駅前のマンションに帰宅し、シャワー浴び終えた俺は、窓より見えるベリが丘駅を眺めながら今日のことが脳裏によぎる。

 祖父から写真をもらい、桜花がどんなふうに大人のなったのかは知っていたが、写真と実物とでは雲泥の差だ。

 実際に会った桜花は愛らしさが増していたし、あの怒った顔も最高に可愛くてたまらなかった。

「だけど予想通りとはいえ、会っても俺のことは思い出してくれなかったな」

 初対面の時、少しばかり会ったら思い出してくれるのではないかと期待していた自分がいた。

 しかしその期待は見事に打ち砕かれ、桜花はなにも思い出してはくれなかった。でも却って思い出さないでくれてよかったのかもしれない。

 やっと両親の死のトラウマを克服し始めているというのに、俺のことを思い出して彼女につらく、悲しい思いをさせたくない。 俺たちは今日、新たに出会ったんだ。これからまた一から関係を築いていけばいい。

 昔は人見知りの俺を気遣い、桜花から近づいてくれた。だから今度は俺から近づいていくさ。

彼女が俺を好きにさせたように、今度は俺が桜花を好きにさせてみせる。

「覚悟しておけよ、桜花」

 覚悟しろよと言った時の桜花のびっくりした顔を思い出したら、俺は自然と笑ってしまっていた。