心配で会いに行った時、「誰?」と聞かれた瞬間は耳を疑った。どんなに「大翔だよ」と説明しても桜花は知らないの一点張りで、次第に頭痛を訴え倒れてしまった。

 理由はわからないが、医師からは時間が経てば戻ることもあるし、戻らないこともあると言われた。

 なぜ俺のことだけ忘れてしまったのかについては、医師の見解では俺がパイロットになりたいと言っていたことと、両親の死因が飛行機事故ということが関係しているのかもしれないと言っていた。

 さらに桜花は飛行機恐怖症になった。それを聞き、俺は絶望した。

 きっと俺に会ったらまた頭痛に襲われ、嫌な思いをする。最初は桜花に会いに行くことを家族に反対されるたびに反発していたが、桜花のことを一番に考えたら会わないほうがいいと思うようになった。

 それというのも、会っても桜花は俺に怯えていて、大好きだった愛らしい笑顔を一度も見せてくれなかった。

 それがつらくて悲しくて、俺が耐えられそうになかった。

 祖父と両親は今辛抱すれば、いずれ時間が解決してくれると言っていたが、桜花のトラウマはそう簡単なものではなかったようだ。

 祖父を通して桜花のことは逐一教えてもらっていた。栄臣とも大きくなるにつれてお互いスマホを持つようになり、頻繁に連絡を取り合うようになった。

 栄臣もまた両親を失ってつらいはずなのに、兄として桜花を支えなくてはいけないという強い責任感が芽生えたようで、桜花のそばに寄り添いながら呉服店の跡取りとして勉強の日々だったようだ。