そんな店の様子を見た祖母はもう私たちに松雪屋を任せられると判断したようで引退した。今は数ヵ月に一度海外旅行に出かけて楽しい日々を過ごしているようだ。

 私はというと、つい先日に大きな話が舞い込んだ。飛行機へのトラウマを克服した私はこの一年間の間に二度、海外で開催された展示会に出展した。

 それに来ていたビルを所有するオーナーから、ぜひロンドンで着物のセレクトショップを出店して見ないかと声をかけられたのだ。

 海外で着物文化を広めたいと夢を抱いていた私にとって、こんな光栄な話はない。兄たちもせっかくのチャンスをものにしたほうがいいと後押しされたけれど、どうしてもすぐに返答することができなかった。

「おーちゃ、あ! あ!」

 一歳になった幸助はずいぶんと多くの言葉を話すようになった。まだ片言だけれ度、ちゃんと意味が伝わってくる。

 私のことを〝桜花ちゃん〟と呼びたいようだがまだ言えず、「おーちゃ」って呼んでくるんだけど、それが可愛くてたまらない。ずっと「おーちゃ」でもいい気がするほどに。