大翔とお見合いしてから一年と四ヵ月が過ぎ、今年も桜が咲く季節がやって来た。

「あー! おーちゃ!」

「ふふ、待って幸助。危ないから手を繋ぐよ」

 櫻坂には桜並木があり、周辺では有名なお花見スポットだ。毎年桜が満開の時期には多くの花見客が訪れている。

 今は朝の七時半ということもあって人通りは少ない分、ゆっくり幸助と桜を見ることができる。

「ママとパパは明日には帰ってくるからね」

 昨日から兄と雪乃さんはふたりっきりで旅行中。それというのも、家事に子育てに仕事の繁忙期が重なり、雪乃さんは満身創痍状態だった。

 幸助を身籠ってからふたりで遠出もしておらず、せっかくの機会だからと私と祖母でふたりに旅行をプレゼントしたのだ。

 両親がいない夜、幸助は大丈夫か心配だったか、すっかりと私に懐いてくれているおかげで泣くことはなかった。

 旅行先でもそれが心配だったようで、何度も兄と雪乃さんから連絡がきたときは、祖母と「これじゃ楽しめていないよね」と笑ってしまった。

 今回、ふたりを旅行に送り出せたのは半年前から入った従業員の存在が大きい。募集に対してあれから五人の応募があったのだ。兄は思い切って三人採用し、私と兄は従業員に店を任せて展示会やイベントへの出店に力を入れることができている。