「べつにお兄ちゃんにかまってもらわなくても、私は気にしないけど?」

 兄は少々私に対して過保護な一面がある。よく周りからはシスコンだと言われているが、それはきっと兄として妹を守らなくてはいけないという責任感からくるものだろう。

「桜花が気にしなくても私が気にするの。私はね、桜花を独り身のまま残して死ねないのよ。あなたたち兄妹の幸せを見届けずにあの世にいったら、ふたりになにを言われるか」

 祖母の言う〝ふたり〟とは、私が七歳の時に亡くなった両親のことだ。

 それから両親に代わって私と兄を育ててくれた祖母には感謝しているし、安心させたいという思いもある。

 しかし祖母の言う〝幸せ〟の定義がよくわからない。私にとっての幸せは、大切な家族とともに大好きな着物の仕事に携われている今だから。

「ねぇ、おばあちゃん。前にも言ったけど私は今がすごく幸せなの。それに結婚が幸せのゴールだとは思えないし、結婚するなら心から好きになった人としたい」

 幼い頃から家族が呉服店を営む姿を近くで見てきたこともあり、私の夢はお店で働くことだった。

 そのために呉服に関わる勉強に励み、努力を重ねてきた。兄が店を継ぐことが決まっているから、私は兄のサポートをしつつ、私の思うやり方で着物の素晴らしさを伝えていきたいと考えるようになっていった。それは亡くなった両親の願いでもあると思うから。

 松雪屋で扱う着物は一流の職人が丹精込めて織ったものだ。繊細で絶妙な色合いが素敵だし、自信を持ってオススメできる。