大翔との約束があるから乗れる。大丈夫、トラウマは克服できると信じよう。

 通話を切った後、雪乃さんが用意してくれた朝食をみんなで食べた。楽しい時間はさらに私に勇気を与えてくれて、祖母たちに見送られて兄とともに空港へと向かった。


「桜花、忘れ物はないよな? パスポートや酔い止め、財布にスマホもちゃんと持ったか?」

「大丈夫、全部持ったよ」

 まるで母親のように心配する兄のおかげで冷静になれるよ。

「それならいいが……。離陸する前だったらいくらでも引き返せる。無理だけはしないでくれ」

「うん、わかってる」

 それは医者に大翔、家族みんなに何度も言われたことだった。私も他の搭乗者の迷惑にならないよう、少しでも無理だと思ったら諦めようと決めている。

 大翔にロンドンに連れていってもらう機会は、この先たくさんあると思うから。

 そろそろチェックインカウンターに行かなくてはいけないのだけれど、なかなか兄が行かせてくれずにいた。

「お兄ちゃん、悪いけどそろそろ行かないと」

「あ、あぁ。そうだな」

 すると兄は私の手をギュッと握った。

「俺としては記憶が戻らなくても、飛行機に乗れなくてもいいと思っている。ただ、元気で幸せになってくれたらいいんだ。だからダメだったとしても落ち込むことないからな?」

「ありがとう。でもさ、お兄ちゃん。さっきから私が飛行機に乗れないことを前提に話していない?」

「えっ! いやいや、もちろん俺はロンドンに行けることを祈っているさ! ただ、乗れないとしても落ち込むなってことを言いたいのであってな」

 慌て出した兄に笑みが零れる。