大翔の声は近くにいたみんなにも聞こえていたようで、調理をいったん止めてキッチンから出てきた雪乃さんに幸助を預け、兄が電話に出た。

「桜花なら大丈夫だから心配するな。……あぁ、泣いたのは嬉し泣きだ。なに? 嬉し涙も流させるなって無茶ぶりするな! そうだ、俺がちゃんと送っていくからお前も桜花を安全にロンドンに連れてってくれよ。じゃあな」

 なにやら大翔が『最後に桜花と話をさせてくれ』と言っていたようだけど、兄が一方的に通話を切ってしまった。

「まったく、家族団らんの邪魔をするなって。なぁ、幸助」

 しかし、すぐに大翔からまた電話がかかってきた。兄は出なくていいと言うが、出ないわけがない。

「もしもし、大翔。お兄ちゃんがごめんね」

『まったく、栄臣には困ったもんだな』

 今度は勝手に通話を切られないよう、廊下に出る。

『いよいよ今日だな』

「……うん」

 この日を迎えたら緊張で大変なことになっているかもしれないと心配だったけど、そうでもなかった。今は飛行機に乗ることが楽しみで待ち遠しいほど。

『約束通り、俺がロンドンに連れていく。だから向こうで笑って会おう。そしてロンドンの街並みをふたりで散策しような』

「……うん!」