昨日のうちに新しいスーツケースの中に荷物をまとめて入れておいたから、あとは準備をして空港に向かうだけ。

 乗るのは八時十五分発の便。一時間前には空港に着いていたいから五時に起床した。

 みんなを起こさないように静かにドアを開けて、キッチンへ向かうと明かりが灯っていた。そこにはエプロンを付けて朝食の準備をする雪乃さんの姿があった。

「え、雪乃さん?」

「おはよう、桜花ちゃん。待ってて、もう少しでご飯できるから」

「そんなっ……! 自分で作りますよ」

 甥っ子の幸助(こうすけ)が生まれてからというもの、夜もお世話で何度も起きている雪乃さんは、いつも七時まで疲れて寝ている。代わりに私が朝食の準備をしていた。

 昨夜だって何度か幸助の泣き声が聞こえてきたから、寝不足のはずなのに。

「いいの、今日はどうしても美味しいご飯を作って桜花ちゃんを送り出したいから作らせて」

「雪乃さん……」

 するとリビングから兄の「そうだぞ、桜花」という力ない声が聞こえてきた。

 声がしたほうに目を向けると、ソファで幸助を抱っこする兄の姿があった。

「空港までは俺が送ってやるからな」

「お兄ちゃんまで……」

 兄だって今日は仕事なのに、朝早くに起きてくれたんだ。

 感動で胸がいっぱいになっていると、玄関から祖母の「ただいま」という声が聞こえてきた。少ししてリビングに入ってきた祖母は、手にしていた神社の袋を私に差し出した。