桜花は本当に感情豊かで、笑ったり怒ったり悲しんだりと忙しない子だった。だから余計に目が離せなくて、でもそんな彼女と一緒にいると楽しくてたまらなかった。

 そして、彼女を知れば知るほどもっと一緒にいたい、桜花の一番になりたいと思うようになる。

 この気持ちが恋だと気づいたのは、桜花と出会って一年が過ぎた頃。よく初恋は実らないものだというが、ジンクスを打ち破り、桜花もまた俺を好いてくれた。

「ねぇ、大翔君。私ね、大好きな着物をもっとみんなに着てもらうことが夢なんだ」

「すごいね。でも桜花ちゃんは着物のこと、すごく詳しいし、絶対にできるよ」

 それは小学校入学を控えた三月の終わり頃。祖母とともに遊びに来た桜花と俺の部屋で遊んでいた時に、将来の夢はなにかという話になった。

「えへへ、ありがとう大翔君」

 俺に褒められて嬉しそうにはにかむ姿に、胸の奥が苦しくなる。

「じゃあ今度は大翔君の番ね」

「……うん」

 将来の夢はなにか。何気ない問いに、俺はいつもすぐに答えることができず、決まって「まだわからない」と言っていた。